「エンジンがかからない」を最初にどう考えるか?
私は自動車整備の専門学校在学時、二級整備士の試験に合格するため2年間勉強し、無事に試験を満点(自己採点)で合格できました。
しかし、卒業後就職した職場の業務で整備の相談を受ける中、「エンジンがかからないんだけど、どこから見たらいいですか?」と聞かれたときには頭が真っ白になり、正直どこから考えればいいか分かりませんでした。
試験の知識には自信があった
試験問題や理論は理解しているつもりだった
専門学校在学時には多くの過去問を解き、分からないときは教科書で調べ、問題の内容理解を重要視することで、試験に出題される点火系、燃料系、圧縮などの基本理論や、センサ類の構造・役割・特徴は理解していました。
現場で突然聞かれて固まった
はじめての整備相談の電話対応。
「エンジンがかからないんだけど、どこから見たらいいですか?」
唐突に聞かれ、「え?えーっと…」と、頭の中は真っ白。
学校で使っていた故障探求の教科書を一生懸命めくり、“エンジン始動不良”のページを見ながら「圧縮は正常ですか?」と答えて、「え?圧縮ですか…?」と言われたのを今でもはっきり覚えています。
知識が点のままだった
エンジンは様々な部品が正常に作動していくことで、一つの正常動作が完成します。
専門学校での勉強によって、部品名称や各部の構造・点検要領など単体では理解していたのですが、エンジン全体の流れで見ることができていませんでした。
「エンジンがかかる流れ」とは?
そもそもエンジン始動って何が起きている?

まずスタータ・モータ(セル)が作動し、スタート(クランキング)信号がエンジンECUに入力されます。
同時に、エンジンECUには回転信号・冷却水温信号が入力され、スパーク・プラグへの点火信号、インジェクタへの噴射信号を出力することで、火花・燃料・圧縮の“燃焼の3要素”が揃います。
さらにエンジンECUの作動により、燃料ポンプ・リレーを経由して燃料ポンプが作動し、燃料を圧送します。
故障探求は“流れがどこで止まっているか”を探す作業
不具合が発生しているときは、作動させるための流れがどこで止まっているのかを見つけることが重要です。
それを見つけるためには正常作動の流れを理解し、条件が成立していないところを探していきます。
「エンジンがかからない」を整理する
スタータ・モータが回らない場合
まず、スタータ・モータが回らない場合は、スタータ・モータ本体やバッテリ、スタータ・モータの電源系統の点検などを行う必要があります。
「エンジンがかからない」症状では最も大きな分岐点となるため、今回はじめに聞くことは「スタータ・モータは回っていますか?」でした。
スタータ・モータは回るけど初爆(燃焼)がない場合
- 火花が飛んでいない
- 燃料が噴射されていない
- 燃料ポンプが作動していない
- スタート信号、回転信号がECUに入力されていない
スタータ・モータが回るにも関わらず燃焼しない場合は、上記のいずれかがうまくいっていない可能性が高いので、それぞれに異常がないか点検していきます。
原因を探る点検
燃料ポンプが作動していない
点検の結果、燃料ポンプが作動していないことが分かりました。
燃料ポンプを作動させるための燃料ポンプ・リレーは、点検の結果正常。
燃料ポンプ本体不良の可能性も考えられますが、点検を続けて分かった真の原因は、まったく違うところでした。
真の原因は電気回路の基礎だった

クランキング時の燃料ポンプの電圧を測定すると約0Vだったため、配線を追っていくと中間コネクタ部分の端子に錆が発生していました。
端子の腐食により接触抵抗が増大したことで、燃料ポンプへ正常な電源供給がされていないと判断し、コネクタを清掃し接点復活剤を塗布することで正常復帰できました。
中間コネクタが腐食した根本の原因については、過去に何らかの理由でコネクタが取り外されたことがあるのか、何かをこぼし液体が付着したことによるものなのか、はっきりとは分かりません。
しかし、この事例で原因追及に必要だったのは、試験勉強で繰り返していた電気回路の基礎理解でした。
まとめ:試験勉強とのつながり
勉強してきた知識は必ず活きる
点火や燃料、エンジン本体の単体での知識はすでに持っていました。
ただ、故障探求するための“線”のつながりがない状態。
しかし、そこまで試験に向けて積み上げていた“点”の知識がなければ、それが“線”につながることはなかったと思います。
問題を“つながり”で見る
構造や制御の理解はもちろん大切ですが、「この構造や制御が不具合を起こしたときに、どのようなトラブルにつながるか?」という視点を持つと理解が深まり、結果的に試験でも間違いが減ると思います。
車は長く乗ると、経年劣化や部品不具合によるトラブルは避けられません。
だからこそ、試験勉強の段階から不具合を見越した学習を心掛けることで、その先にある現場の効率的な作業へとつながっていきます。
暗記だけではもったいない
「試験と現場は違う」との意見もありますが、私自身は試験の知識が現場での故障診断に活きることを体感してきました。
例えば排ガスが下がらないときに空燃比が濃いのか薄いのか、それによって点検する箇所が違ってきます。
排出されているガスの濃度によって、空燃比の濃い薄いが分かることは、エンジンの基礎に出てくる内容で試験にも出題されています。
その知識をもとにエンジン不調の原因を推察し理論を固めていくことで、誤診や無駄のない点検を行うことにつながります。

