外し方は知っている、でも外せない…。教材車と現場の車の違い
整備士の勉強をしていると、「部品の外し方」はたくさん学びます。
私自身も長年、教材車や実習車で分解・組み付けを教える立場にいました。
しかし、実際の現場で最初に感じたのは、
「外し方は分かる。でも外れない。」
という現実でした。
現場で作業をしているとたびたびその壁にぶつかるのですが、ある日、ロアボールジョイントのナットが思うように外れないとき、その理由を考えていると一つの答えにたどり着きました。
それは、
教材車と、実際に毎日走っている車はまったく別物ということです。
教材車と現場の車は同じようで全く違う
教材車は「分解するため」の車
学校や研修で使う教材車は、「整備を学ぶこと」が目的です。
極端に錆びていたり長年放置された状態ではなく、誰かの手によって定期的に分解され、「部品が外れない」という状態になることはまずありません。
一方、現場の車たちは雨の日も雪の日も道路を走り回っています。
熱や水分、泥、塩害など様々な環境にさらされることで、部品同士は時間をかけて固着していきます。
教科書には載っていない”現実”
サービスマニュアルには「このナットを外す」と書いてあります。
しかし現場では、そのナットが外れないことがよくあります。
むしろ外れないことがデフォルトで、教科書には載っていない対応力が必要です。
外し方を知っていることと、外せることは違う
知識だけではボルトは緩まない
整備の理論を理解していても、固着したボルトは勝手には回りません。
「外し方」は学びますが「外せるか」どうかは別の話。
ロアボールジョイントもそうですが、
- 錆
- 焼き付き
- 電食
- 泥や水分
こうした要因で部品は簡単には外れてくれません。
どのくらい力をかけるか。どこまでなら壊れないか。
その判断は教科書では学べない部分です。
無理に外そうとすると壊してしまう
壊さないための判断が必要
力任せに回すとボルトが折れたり、ねじ山をつぶすことにつながります。
すると、作業にかかる時間が一気に増え、予定が狂い余計な体力を消耗することに。
壊さずに外すには?
- 浸透潤滑剤を使う
- 一度締め方向に少し動かす
- 衝撃を与える
- 加熱する
状況によって方法は変わりますが、壊さずに外すことを前提として進めます。
時間との戦いでもある
時間をかければ外せることもあります。
しかし現場では時間管理も大切。
仕事でやっている以上、時間をかければいいというものではなく、難しそうなら次の手、さらに次の手を打つ。
頭を使い工夫をしながら、安全・品質・効率のバランスを取ることが求められます。
経験値とは「壊さずに外す引き出し」の数
工具の選び方も経験
- ラチェット
- ギヤラチェット
- ギヤコンビレンチ
- エアーラチェット
- 電動インパクト
- ハンマー
同じ作業でも工具選びで効率や結果は変わります。
今、どの工具を使うことが最適解なのかを考えながら、不足している工具は同僚や先輩に借りて進めます。
ひんぱんに借りる工具は作業に必要なものと判断できますので、無理のない範囲で購入を検討する方がよいかもしれません。
失敗が経験になる
今日できなかったことも次に同じ場面が来た時にはできるようになります。
大切なのは「何でこうなったか」「次はどうするか」を考えること。
現場ではその積み重ねが財産になります。
教科書は基本を学ぶためにとても重要なツールです。
その基本を理解しているからこそ現場での応用力が発揮でき、壊さずに外していく技術力が磨かれていくのだろうと思います。
今回の気づき
整備士は毎日レベルアップできる仕事
ロアボールジョイントのナットが外れなかったことで、「自分はまだまだだ」と思いました。
でも同時に、「足りなかったのは知識ではなく経験だった」ということにも気づけました。
昨日できなかったことが、今日はできるようになる。
そんな自分の成長を体感できることが整備士という仕事の面白さです。
整備士として本当に成長するのは、「どう外すか」ではなく「どうすれば壊さず、効率よく外せるか」を考えられるようになったときなのかもしれません。
まとめ
教科書には「外す」と書いてありますが、現場ではその一言の裏にたくさんの経験が詰まっています。
「外し方は知っている。でも外せない。」
その差を埋めるのは新しい知識ではなく、現場で積み重ねる経験なのだと思います。
教科書は「正しい方法」を教えてくれる。現場は「外し方」を教えてくれる。
専門学校や技術講習に通っている方で実務経験が少ない方は、「これは現場だとどんな外し方が最適か?」などを、同じ受講生や先生・講師に聞きながら現場でのスキルにつなげていくことで、日々の学習がより実のあるものになると思います。

